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東京高等裁判所 昭和28年(ネ)1833号 判決

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上並びに法律上の主張はすべて、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

三、理  由

一、事実関係について。

被控訴人は昭和二十七年十月二十日星製薬株式会社を債務者として東京地方裁判所に電話加入権差押命令を申請し、同裁判所は同庁昭和二十七年(ル)第五一八号事件として審理の上、これを認容して電話加入権差押命令を発し、その命令は同年十月二十二日右債務者会社及び第三債務者日本電信電話公社に送達された。そして同裁判所は被控訴人の申請によつて右差押にかかる電話加入権の換価命令を発し、その命令は、昭和二十七年十一月八日右債務者会社及び第三債務者日本電信電話公社に送達され、同年十二月三日東京地方裁判所執行吏が右差押電話加入権を換価して、売得金を領収した。次いで被控訴人は昭和二十七年十二月二十五日附の計算書提出命令にもとずいて、昭和二十八年一月十四日、差押債権額を金三百九十九万七千五百円とする計算書を執行裁判所である東京地方裁判所に提出した。ところが控訴人(東京国税局長)は執行吏が換価手続によつて売得金を領収した後である昭和二十八年二月四日執行裁判所に対して、右債務者会社に対する国税合計金一千七百三十三万六千九百二十八円の交付要求をした。ところで執行裁判所である東京地方裁判所は、昭和二十八年二月十三日の配当期日において、出頭した被控訴人に対して、「前記売得金中の配当金六十五万八百二十八円を全額控訴人に配当し、被控訴人に対する配当額はない」という配当表(他に配当要求をした債権者はない)を呈示したので被控訴人は直ちに右配当に対して異議を述べた。

以上の事実はすべて当事者間に争いがない。

二、本訴の適否について。

(一)  控訴人は「国税の交付要求は民事訴訟法上の配当要求とその性質を異にし、配当要求手続に準じてなすべきものでないから、被控訴人が、配当異議の訴によつて控訴人の交付要求の効力を争う本訴は不適法である。」という趣旨の主張をするものである。

(二)  しかしながら、国税徴収法施行規則第二十九条の規定に従つてなされる国税の交付要求は、後に説明するとおり、民事訴訟法上の配当要求に準ずるものであつて、それには民事訴訟法に定められた配当要求に関する手続が準用されるものと考えられる。従つて債権者である被控訴人が、他の債権者である控訴人に対する本件配当を阻止するために、配当期日において異議を述べたのに対して、控訴人がこれに同意しなかつた以上被控訴人としてはその主張を貫くためには、配当異議の訴によるべきものである。よつて本訴は適法である。

三、本案請求の当否について。

(一)  本件においては、右差押電話加入権が競売され、執行吏がその売得金を領収した後になつて、控訴人が国税の交付要求をしたものである。ところで国税徴収法施行規則第二十九条の規定によつて、収税官吏のする交付要求は、民事訴訟法による強制執行においては、如何なる時期までになさるべきものであるかが問題となる。

(二)  国税の徴収を確保するために、国税徴収法第二条第一項は、国税及びその滞納処分費はすべての他の公課及び債権にさきだつて徴収する旨を定めている。これによつて国税債権については納税人の総財産を目的とする優先的徴収権を与え、国税債権と他の債権とが同時に納税人(債務者)の同一財産から弁済を受けようとする場合には原則として国税債権はすべての他の債権に優先して弁済を受けることができるものとしたのである。このことは要するに国税債権の徴収に関し弁済の順位について優先権を与えたものにとどまつて、それ以上に納税人の総財産に対して国税債権のために一般の先取特権もしくは特別担保権を与えたものではない。

(三)  そしてかような国税優先徴収の目的を達するために、国税徴収法施行規則第二十九条は、国税の交付要求という制度を設けて、納税人の財産に対して民事訴訟法による強制執行がなされたとき又は競売法による競売が開始されたときなどのように、他の執行機関による執行が現に行われている場合には、徴税官庁は自ら滞納処分を執行することなく、他の執行機関の執行手続に参加して、その換価金から国税を優先的に徴収することとした。

(四)  ところでこの交付要求は如何なる手続によつて、なさるべきものであるかということについては、特別の規定はない、従つて、その手続はその参加する他の執行機関の執行手続の各場合に応じて、国税における弁済順位の優先性という観点に照しあわせて、これを定めなければならない。

(五)  本件は、被控訴人の申請によつてなされた電話加入権に対する強制執行に、控訴人が参加して交付要求をする場合である。

強制執行にあたつて、民事訴訟法上配当要求をすることのできるものは、執行力ある正本を有する債権者及び民法に従い配当要求をなし得べき債権者に限られている。従つてこの点からみれば、国税の交付要求は当然には民事訴訟法上の配当要求という性格を有しないことは勿論である。しかしながら国税債権といつても、それが債権であることに変りはないのであつて、収税官吏のする国税の交付要求も、納税人の総財産によつて担保される国税債権が他の債権者のした強制執行に参加して、換価金からその弁済を求める意思表示であるという点においては、債務者の総財産を一般担保とする他の私法上の債権者のする配当要求と相通ずる性質を有するものであり、また執行力ある正本にもとずかない配当要求者は、民事訴訟法上配当に加わることはできても、自ら執行手続を追行する権能を有せず、全く差押債権者及び執行力ある正本にもとずく配当要求者に附随するにすぎないものであるところ、一方国税の交付要求も既に進行している強制執行手続に参加し、これを利用して国税債権の弁済を求めるものであつて、自らは執行手続を追行する権限を有しないものであるから、この点からみても、両者には共通するところがある。

ところで国税債権実現のための強力な方法として、前に述べたような交付要求による優先徴収権を与えられているがその優先徴収ということも、要するに弁済の順位についての優先性を意味あるものであつて、それ以上の何ものをも物語るものではない。従つて国税の優先徴収性を認めつつもなおその交付要求というものが配当金の中からその弁済を受けるものであるという点において、私法上の一般債権者が配当に加わるためにする配当要求に準じて考えることは妥当を欠くものとはいえないであろう。この点において国税の優先徴収権を強調して、その交付要求が配当要求とは全く相容れない特異の性格を有するものと断定することは相当でない。また国税債権が公法上の債権であるという事由ばかりからみて前述の見解を否定することも妥当でない。

このように各角度から考察すると国税の交付要求は、民事訴訟法上の配当要求と共通の性質を有するところがあるから、これを配当要求に準ずるものとしてその手続は民事訴訟法における配当要求手続に準じて、処置することが妥当である。

(六)  このことに関して、控訴人は「私法上優先弁済を受ける権利を有する者は、その優先権者という資格においては、配当要求をすることができないものであるから、同じく優先権のある国税債権が優先弁済を求めるには、配当要求の手続によるべきものではない。」と主張する。なるほど、配当要求というものは、私法上の一般債権者が平等弁済を求める意思表示であるから、債務者の特定財産について優先弁済を受ける権利を有する担保権者はその優先権者たる資格においては、配当要求をすることは認められないのであつて、ただ優先弁済請求の訴(民事訴訟法第五百六十五条)又は第三者異議の訴(同法第五百四十九条)によつて、その権利を確保する法律上の手段が与えられていることは控訴人所論のとおりである。しかしながら、かような優先権者であつても、執行目的物の所有者に対する人的債権者であるならば、その資格において債務者の一般財産に対して強制執行をすることは、固より妨げないのであつて、その意味において、配当要求ということもまた可能である。ただかような優先権者といつても必ずしも常に執行目的物の所有者に対する人的債権者とは限らないから、優先弁済請求の訴もしくは第三者異議の訴によつて、その優先権を確保する必要があるにとどまる。これに反して国税債権は納税人(債務者)の一般財産を以つて担保されているにとどまつて、その債権者たる国は執行目的物の所有者に対する関係においては常に、人的債権者たる地位にあるものである。かように私法上の優先権者と国税債権者との立場の相違を肯定しつつ考えると、国税債権においては、その満足を得る手段について、必ずしも私法上の優先権と同様に取り扱わねばならないという合理的根拠に乏しく、ことに国税債権については、適法な交付要求という手続によつて、その債権の優先的満足が担保されているのであるから、それ以上に優先弁済請求の訴ないしは第三者異議の訴によつてその優先弁済を確保しなければならないという必要は存しないものと考える。かような趣旨において、私法上の優先権者がその資格において配当要求をすることができないということを根拠として、国税債権者の交付要求についても、配当要求の手続によるべきものでないという控訴人の所論たやすく諒承できない。

(七)  また控訴人は、「破産法においては、交付要求にかかる国税債権については、財団債権に属するものとして(破産法第四十七条第二号)破産手続によらず随時破産債権にさきだつて弁済すべきものとしているということ(同法第四十九条第五十条)を根拠として、交付要求にかかる国税債権の徴収に関しては、配当手続によるべきものではない。」と主張する。国税債権が破産手続においてこのような取扱を受ける所以は、破産手続において担保権者は別除権によつて強力な保護を受けているにもかかわらず国税債権はすべての債権に優先するといいながら、特定財産に対する担保権を有せず、単に破産者の総財産によつて担保されているにとどまるものであるという関係から、その優先徴収の実をあげるため特に国税債権を財団債権として優先弁済を受けうることとしたものにほかならない。破産手続において国税債権の徴収についてかような特別の措置が講ぜられている趣旨から考えると、民事訴訟法による個々の財産に対する強制執行においては国税債権の徴収については、強い優先権が与えられておつて、その債権の満足を実現する手段には欠けるところはないわけであるから、その権利の実現について、破産手続における場合のように、国税債権を私法上の一般債権と別異の取扱をしなければならないという理由をみい出すことはできない。

(八)  以上説明したところから考えると、国税の交付要求は、民事訴訟法上の配当要求に準じて取り扱うのが相当であるからその交付要求をするについての手続は、配当要求手続に準じて考えるべきものと解するのが妥当である。

(九)  本件において執行の目的物は電話加入権であつて、それが換価命令によつて換価せられ、その売得金を執行吏が領収したというのであつて、かような場合においては、配当要求をすることのできる者が配当要求をなすべき時期は当該執行吏がその売得金を領収してその執行の目的物に対する換価手続が終了する時までと限られておる(民事訴訟法第六百二十条第一項)。このことは、執行の目的物について換価手続を終了し配当手続に入るに当つては債権者の数及びその債権額が確定していることを必要とし、その後に債権の増加を認めることは手続の煩雑をきたすという見地からこれを許さないとする趣旨によるものである。従つて同じく配当要求に準じて取り扱れるべき国税の交付要求についても、換価手続を終わつて配当金額が確定した後になつては、これを認めないものと解すべきである。

(十)  そうだとすれば本件電話加入権の換価手続の後になした控訴人(東京国税局)の本件交付要求は適法でなく、その効力を生じないものといわなければならない。従つて控訴人の交付要求を容れ売得金六十五万八百二十八円全額を控訴人に配当すべきものとした本件配当表は取り消さるべきであつて他に配当要求をした債権者のいない本件においては、右配当金は全部、差押債権額を金三百九十七万七千五百円とする差押債権者たる被控訴人に配当さるべきものである。

四、しからば、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、これを棄却すべきものとし、民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 浜田潔夫 工藤慎吉 仁井田秀穂)

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